一方、知識体系としての定義には以下のようなものがありました。
(1)Edwards, E. Human Factors in Aviation, edited by Wiener, E. L. & Nagel, D. C., Academic Press, 1988
The technology concerned to optimize the relationships between people and their activities by systematic application on the human sciences, integrated within the framework of system engineering.
(2)黒田勲、小特集:ヒューマンファクター、電気学会雑誌10月号、1993年
機械やシステムが、有効かつ安全にその機能を発揮するために必要な人間の能力、人間の限界、人間の特性などに関する知識の集合体である。
(3)日本航空技術研究所、ヒューマン・ファクターガイドブック、1995年
環境の中で生きる人間をありのままにとらえて、その行動や機能、限界を理解し、その知識をもとに人間と環境の調和を探求し、改善すること
(4)全日空総合安全推進委員会、ヒューマンファクターズへの実践的アプローチ、1993年
人間にかかわる多くの学問領域での知見をシステムの安全性や効率向上に実用的に活用しようとする総合的学問/技術の体系(もっと実践的にいえば有用な概念・知識と手法の集まり)のこと
(5)日本エアシステム(現在は、株式会社日本航空)
人間を取り巻く環境の中で安全に快適に効率よく働けるようにするため、人間の特性・能力・限界に関する知見を総合的に応用し、人間と機械やシステムとの調和のとれた共存について探求する実践的学問
最初の、Edwardsの定義は、ICAO(国際民間航空機構)のannexで用いられているものです。仮に訳してみますと「システム工学の枠組みの中で統合された、人間科学の体系的な応用によって人間と諸活動の関係を最適化するための技術」ということになるでしょうか?
ここでのヒューマンファクターは、ヒューマンファクタースですから、知識体系としてのヒューマンファクターです。
黒田の定義は、明らかに知識体系としての捉え方です。
日本航空の定義は、ちょっとニュアンスが異なっています。「改善すること」が定義になっているところに特徴があります。
全日空、日本エアシステムなどの定義を見ると、知識体系あるいは学問という捉え方をしています。
知識体系としてのヒューマンファクターの定義を見ると、次の共通点が見られます。
1.人間や機械で構成されるシステムの存在
2.システムの達成すべき目標があること
3.環境と人間の調和を求めること
4.安全性を追求すること
5.効率を追求すること
6.人間の諸限界を理解すること
7.実用的あるいは応用的で、役に立つものであること
こうして並べてみると、知識体系としてのヒューマンファクターのイメージをぼんやりと描くことができるのではないでしょうか?