8.モデルってなに? ―複雑なものを考えやすくする―

人間はたいへん複雑です。見る角度によりいろいろな面が見えます。生理学的側面、認知的側面、集団的側面、その他いろいろな側面があります。このような複雑な人間を理解するにはどうすればよいのでしょうか。
ヒューマンファクター工学では、この複雑な人間や事象を理解する手がかりの一つとして、モデルを利用します。
モデルと言っても華やかなファッションショーでのきれいな衣装に身をまとった美しい女性のことではありません。無味乾燥な頭で考えるモデルです。
モデルは、現実の世界のあらゆる側面をすべて忠実に写し取るのではなく、関心のある部分だけを写し取り、他を捨ててしまいます。例えば、プラモデルは現実の飛行機を模擬していますが、実際に飛ばすことはできません。ラジコン飛行機は、実際に飛びますが形はプラモデルほど精密ではありません。つまり、モデルはどこに関心があるかによって異なり、プラモデルでは形の忠実な模写を、ラジコンでは機能の模写を行っているのです。
複雑な人間の行動を考えるとき、理解しやすいようにいろいろなモデルが提案されます。例えば、ラスムッセンのSRKモデル(図1)はプラント運転員の情報処理のレベルと行動を理解するのに便利です。また、黒田のモデル(図2)は、人が情報をどのように処理しているかを理解するのに便利です。その他、ハインリッヒの法則も事故のモデルと言っていいでしょう。ハインリッヒのモデルから事故防止のためには何をしなければならないかが容易に理解できます。

図1 ラスムッセンのSRKモデル
図2 黒田の情報処理モデル

SHELモデルはヒューマンファクター研究で広く用いられているモデルです。ヒューマンファクターを考える上で問題を整理するのに便利です。F.H.ホーキンスが提案したオリジナルのSHELモデルではManagementがありません。そこで、筆者はManagementが見えるようにmSHELモデルを提案しました。その方が考えるとき便利だからです。医療においては患者が重要なので、患者の要素を加えたのがPmSHELLモデルを考案しました。
表1は、一般に用いられているモデルの種類です。私たちはこのようなモデルを複雑な人間にかかわる現象を理解するのに利用するのです。

表1 モデルの種類(池田、1980)

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