2021年1月31日、2020年度医療安全管理者養成講習会がオンラインで開催されました。
ZOOMを使ってヒューマンエラー事象分析手法ImSAFER分析手法Basicを遠隔で実習指導しました。ZOOMを使ってのグループワークは各グループに一人ずつとアサインされたボランタリーのファシリテーターの支援を受け、とてもうまく実施することができました。
ZOOMを使っての遠隔実習は、参加者にZOOMの使用にある程度、慣れておく必要があり、また、パソコンと安定したインターネット環境が必要であれば、どこからでも参加することができ、今後の実習方法の一つとして利用が広まると考えられます。
一方、実習中の参加者に直接指導することができず、ちょっと残念に思われた部分もありました。
グループワークのファシリテーターは、必ずしもスタジオに居る必要はなく、自宅からでも参加が可能である点も今後の活用が広がると考えられます。
支援していただいた種田先生をはじめとするファシリテーター、ImSAFER研究会のシニアインストラクターの方に感謝いたします。
医療安全全国共同行動主催遠隔事例分析
医療安全全国共同行動主催の医療安全管理者養成セミナーで講義をしました。
本来は集合研修で、模造紙とポストッとを使ってグループワークによって行うのですが、コロナ対策のために、ZOOMを使って個人ベースで分析をしてもらいました。
この方式によって所定の成果を得るためには、ZOOMの操作環境(インターネットの安定性やパソコンなど)がそろっていることと、参加者がZOOMの操作にある程度習熟しておく必要があります。
一方、環境さえ整っていればどこからでも研修に参加できるというメリットがあります。
今後、このような遠隔による講義や事例分析は広がってくると考えられますが、講師の側からすると受講者の分析作業中に細かな指導ができない、という残念なところがあります。
医療安全講習会にご利用下さい。
コロナ対応のために集合研修の実施が難しい、という声を病院の医療安全管理者から聞きました。
そこで、手軽に視聴できるようにYouTubeの動画としてアップロードしました。院内でご利用ください。ただし、院外での研修はご遠慮ください。
順番に視聴いただくように配列しておきますが、どこから視聴いただいても分かると思います。
ヒューマンエラー発生メカニズム
~ ヒューマンエラーは原因ではなく結果である ~
ヒューマンエラーはたくさんの研究者や実務者により定義されています。
それらを要約すると、
① 人間のある行為があり、
② その行為がある許容範囲から外れたもので、
③ 偶然によるものを除く
となります。
このことから、ヒューマンエラーは結果から評価された「許容範囲外の行動」となります。
事故の原因は、「不注意というヒューマンエラー」だと言われることが多いのですが、不注意は「当事者の注意が他のものに奪われ、適切な注意配分がされなかった」という「結果」と考えることができます。その意味では「ヒューマンエラーは原因ではなく結果である」ということができます。
ヒューマンエラーの再発防止には、ヒューマンエラーとして分析するのではなく、評価と行動を分離して、「間違った行動」ととらえるのではなく、単なる行動、現象としての「行動」と考え、その背後にあると考えられる要因の因果関係を科学的に探索することが重要です。
ヒューマンエラーという言葉は便利なために広く使われていますが、逆に便利なために多少の混乱を引き起こします。そこで、レジリエンスの提唱者で有名なHollnagel博士は、「過誤的行為」という用語を提案しています。しかし、私は「過誤」という言葉が、またエラーを彷彿させ、不明確であるので、定義で示したように「許容範囲外行動」あるいは「許容外行為」の方が良いのではないかと考えています。
ただし、私自身も模索段階であり、今後もよりよい表現を求めていこうと思っています。
医療安全の基礎:医療現場でできるエラー対策
ヒューマンエラーは原因ではなく結果です。
ヒューマンエラーは、ある人間の行動があり、その行動の結果が、ある許容範囲から外れたものです。
人間行動は「人間側の要因」と「環境側の要因」によって決まります。エラー対策は、エラーの起こりにくい環境を作ることと、エラー環境におかれてもそれに負けけない耐性を高めることです。
この動画はすでに医療の現場で働いている医療関係者が個人でできるエラー対策とチームでできるエラー対策について説明します。
医療安全の基礎:安全文化の醸成
~ヒヤリハット報告はなぜ必要なのか?~
医療の現場ではヒヤリハット情報が積極的に集められています。
なぜ、ヒヤリハット情報を集める必要があるのか、その根拠を説明します。
さらに、「安全文化の醸成」が医療安全に非常に重要であることを、歴史的背景や具体的な取り組み方法について説明します。
補足説明
医療では患者への影響が大きいので、患者への影響を基準にして「ヒヤリハット」は患者への影響のない「患者影響度レベル0」と解釈されています。
ただし、ここでは広く「事故に至らなかった事象」としてとらえています。事故の構造から説明すれば、どこかの防護壁で止まった事象のことです。
患者影響度だけで判断すると、事務系職員の関係した問題や医療従事者の針刺し(労働災害事故)は入らないことになりますが、安全文化の醸成には、組織を構成するあらゆる職種、あらゆる階層の人の参加が必須です。そして、最終的なゴールは、最後のスライドにある「気がかり事象」「気になる事象」、さらに、「改善」にまでつなげ、医療システムのリスクを低減し、効率のよいシステムにしてもらいたいと思っています。
これが組織の安全文化の醸成に必要な「情報に基づく文化」だと考えています。
医療安全の基礎:5S活動の勧め
医療安全の基礎の中で最も重要な活動は5Sです。
5Sとは、
整理
いるものといらないものをハッキリ分けていらないものを捨てること。
整頓
いるものを使いやすいようにきちんと置き誰でもわかるように明示すること。
清掃
常に掃除をし、きれいにすること。
清潔
整理・整頓・清掃の3Sを維持すること。
躾(しつけ)
決められたことを、いつも正しく守る習慣づけのこと。
5S活動を実施すれば、
・職員のヒューマンエラーの削減
職場環境の改善、決められたことを決められた通りに実行することが身につく
・患者の事故防止
通路の確保、表示の明確化、不安全箇所の改善
・モノを探すムダの削減
時間の削減、労力の削減、作業の効率化
・スペースの有効活用
在庫の見直し、経費の削減
・職員・患者満足度の向上
病院・病室が清潔、職員の対応が良い
作業効率の向上、リスクの低減
等のメリットがあります。
ぜひ、積極的に取り組んでいただきたいと思います。
すでに活動されている病院は、現状に満足することなく、さらに、それを進めていただきたと思います。
医療現場のヒューマンエラー対策ブック
執筆の動機
2014年に「医療におけるヒューマンエラー 医学書院 2004」を大幅に書き換えました。第二版の一番の違いは、人間の行動モデルを入れ、分析手順を大幅に改良しました。特に、分析手法に取り入れた人間の行動モデルのうち、最も重要なモデルは、レヴィンの行動の法則「B=f(P, E)」でした。
しかし、なかなかこのモデルを理解してもらえないという現実を直視し、この部分を丁寧に説明しようと考えました。
さらに、ヒューマンエラー対策の考え方を「医療におけるヒューマンエラー」で紹介しましたが、もっと分かりやすく、具体例を入れて現場で役立つようにとフォーマットを決めて紹介することにしました。
訴求ポイント
人間の行動モデルを中心に説明しました。インタビューの中で概略を説明し、本文でさらに丁寧に説明しています。
対策についても考え方を説明しました。
このフォーマットを使えばヒューマンエラー対策のデータベースが構築できるでしょう。
執筆の工夫
対策について一枚のシートで具体例を入れて説明しました。検索しやすいようにフォーマットに工夫があります。
能力管理については、院内でどのように展開していったか、実際の例(東京女子医大病院)を紹介しています。
こんな人に読んでいただきたい
病院の医療安全に関係した医師、看護師、薬剤師、その他の医療関係者、医療安全の教育担当者にも読んでいただきたいと思っています。
読むと何が得られるか
ヒューマンエラーのメカニズム、エラーに関する人間の基本的特性、対策の考え方、対策の発想手順、および、発想手順に基づいた具体例、などが理解でき、現場に応用することができると思います。
1.ヒューマンファクターって、なに? ―ヒューマンファクターの定義 (1)―
ヒューマンファクターという言葉の使い方について説明します。
事故の解析の中から生まれたヒューマンファクター工学ですが、言葉の使用については多少の混乱があります。
筆者が調べたところ、二つの使い方があることがわかりました。
一つは、たとえば「その事故には疲労、睡眠不足といったヒューマンファクターが関係していた」というような使い方で、まさに、ファクター=要因、要素、という使い方です。
もう一つは、たとえば、「事故防止にはヒューマンファクターからの知見が必須である」というような使い方です。この使い方では、要素、要因という意味ではなく、ヒューマンファクターを体系的に取り扱う学問、という使い方です。
航空界においては、両者を区別するために、知識体系の場合はHuman Factorsと常に大文字と複数形を用いて表記し、「ヒューマンファクタース(ズ)」と読み、要因としての使い方ではhuman factor (s)と、小文字で表記し、要因が一つの場合は単数、複数の場合は複数形を表すsをつけて、区別して用いています。
筆者は、この使い分けを原子力業界やってみましたが、あまりうまくいきませんでした。日本語では、単数形と複数形の区別の意味がわかりにくく、説明を何度か試みましたが、現場の人にはなかなか分ってもらえませんでした。
そこで、体系付けられた知識の場合は、ヒューマンファクター工学という言葉で表すことにしました。金融工学や都市工学では必ずしもモノを扱っているのではありません。この使い方と同ように、ヒューマンファクターに関する工学という意味で使えば、スッキリすると考えました。
それでは、いったいどのような定義がされているのでしょうか?
筆者の調べたものを紹介します。
(1)大川雅司:人間工学用語辞典、日刊工業新聞社1976年
システムにおける工学的、生理学的、心理学的な人的要因
(2)(財)発電設備技術検査協会、原子力発電信頼性向上調査委員会報告1988年
期待されたシステムの特性からの偏り、あるいは不具合が、システムと人間との関連により生じた場合の人間側の要因
(3)全日空総合安全推進委員会、ヒューマンファクターへのアプローチ1986年
人間、機械、環境系の設計および運用の際に考慮されるべき、人間の特性、能力に関するもの
(4)電中研ヒューマンファクター研究センター、電中研レビュー、No.32、p.9、1995年
ある社会システムが有機的にパフォーマンスを発揮するために必要な要因のうち、人間側に関わる要因(人間の心理・生理・身体・社会的な特性、・人間と他のシステム構成要素の相互作用等)
ここに揚げた定義は、要素としての定義です。大川の定義と全日空の定義は、良い悪いという意味はないニュートラルな意味でのヒューマンファクターの定義です。しかし、発電設備技術検査協会のものは、悪い場合に使うもののようです。
電中研の定義は、PSF(Performance Shaping Factor)と呼ばれるものうち、人間に関するものとほぼ同じといえます。PSFとは、Swain(1983)が提唱している概念で、人間のパフォーマンスに影響を与える要因のことです。
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定義(definition):概念の内容を限定すること。すなわち、ある概念の内包を構成する本質的属性を明らかにし他の概念から区別すること。その概念の属する最も近い類いを挙げ、さらに種差を挙げて同類の他の概念から区別して命題化すること。例えば、「人間は理性的(種差)動物(類概念)である」。広辞苑(第四版)
医療ヒューマンファクター工学
Medical Human Factors TOPICS
はじめに
平成11年1月11日に横浜市立大学医学部附属病院で起こった患者取り違え手術事故以来、医療における安全について国民の関心が高くなりました。このため厚生労働省は平成13年4月、医政局総務課に「医療安全推進室」を設置し、また、医薬局(現 医薬食品局)安全対策課に「安全使用推進室」を設置し、今後、医療業界全体が医療安全について積極的に取り組んでいくことになりました。
産業界においては過去にさまざま事故を経験し、その事故の分析から、安全運航、安全操業にはヒューマンファクターの問題が極めて重要である、との認識が持たれるようになり、それぞれの分野で研究や現場での安全活動が行われています。
医療業界においても、今後、ヒューマンファクターの問題に多くの関心が持たれるのは時間の問題だと考えられます。むしろ、医療システムは人間の介在なしには成立しないので、ヒューマンファクターについては産業界以上に早急に、かつ、積極的に取り組むべき重大なテーマだと考えます。
しかし、産業界がそうであったように、あるいは、現在もそうであるように、ヒューマンファクターに関する用語や取り扱う対象に多少の混乱が生じています。これは、ヒューマンファクターに関する学問が、現在、発展途上にあるためであり、今後は少しずつ体系化されていくであろうと思います。
そこで、体系化が不十分であるヒューマンファクターに関する知見を少しでも整理し、理解を助けるために、このホームページで解説していきたいと思います。
ここで紹介するいろいろなトピックスの多くは、「Human Factors TOPICS(東京電力、1994)」を参考にし、それを医療用に筆者がすべて書き直したものです。
筆者はこれまで航空管制システムのヒューマンファクター、パイロットの自動化の問題、そして原子力発電プラントのヒューマンファクターに関する研究をしてきました。しかし、医療システムでの経験が不十分です。したがって、医療の実務者から見ると的外れなものがあるかも知れません。ただ、別な見方をすれば、医療システムを部外者であった筆者にはどのように見えるかは、視座が異なるという意味で、少しは参考になるのではないかと思っています。
このホームページは、ヒューマンファクターに関するいろいろなトピックスを気軽に読めるようにまとめました。これらのトピックスは、ヒューマンファクターに関する研究や活動のごく一部分にしか過ぎません。興味のある方は参考文献を読んで人間に関する知見を広げて、医療システムに応用していただきたいと思います。
本ホームページを読まれて疑問に思われたことや質問、コメント、アドバイス、時には励ましの言葉(やる気が出ます)などがありましたらどうぞ気軽にご連絡下さい。質問のすべてにお答えできるか分かりませんが、可能な限り反映して、よりお役に立てるホームページにしたいと考えています。
なぜYoutubeに動画をアップしようと考えたか?
これまで私は医療安全の研究会、医療安全推進のための委員会、その他、医療安全のシンポジウムに参加し、安全の考え方、エラー対策の考え方、医療安全推進の考え方などを説明してきました。しかし、まだまだ十分に理解されていないように見えるのです。現実を見ると、相変わらず同じような医療事故が繰り返し発生しています。医療の安全関係の研究会やセミナーに参加される医療関係者は少数であり、また、参加されなければ私の説明を聴いていただけませんので私の考えを伝えることはできません。
何とかできないだろうかと見つけたのがこのYoutubeという新しい手段でした。これなら忙しい医療関係者に対して、場所と時間の制約から解放されますので、少しでも私の考える医療安全推進の考え方が伝えられるのではないかと思ったのです。
私は動画撮影や編集の専門家ではありませんが、手作りで稚拙な技術であっても、少しずつ動画を作成してアップすれば、これまでよりも広く多くの人に私の考えを伝えることができるのではないかと思っている次第です。
これからも医療安全の問題に積極的に取り組んでいくつもりです。
焼津上空ニアミス事故について
2001年1月31日午後3時55分ころ、羽田発那覇行き、B747型機と釜山発成田行き、DC-10型機が焼津上空で、ニアミスを起こしました。両者の間隔は、110m(機長の報告では約10m)。 衝突回避に伴う操作により、100人の負傷者が出ました。
東京地検は、航空機に誤った指示を出した国土交通省東京航空交通管制部の管制官2名を業務上過失傷害罪で在宅起訴しましたが1審では無罪判決となりました。
検察は控訴し、東京地裁は1審の無罪判決を破棄し、両管制官に逆転有罪判決を言い渡しました。
これに対し管制官側が最高裁に控訴しましたが、最高裁はこれを棄却しました。
私は、この事故に関係した東京航空交通管制部で、12年間、管制官として勤務しました。その後、ヒューマンエラーの研究に従事し、このニアミス事故の調査においては、事故調査委員会の主催した意見聴取会で私の考えを述べさせてもらいました。
この事例をベースにヒューマンエラーやシステム安全について、私の考えを4回に分けて説明します。
1.事故調査と裁判結果および事例理解のための基礎知識
2.事例の説明:ニアミスの経緯
3.問題点と背後要因
4.最高裁判所の判決に対するコメント
人の移動が問題ではなく、移動した人の行動が問題
コロナ対策のために人の移動を自粛するように、という要請が出されていますが、問題は、人が移動することが問題ではなく、移動した人がどのような行動をとるのか、が問題だと思います。
移動する人がマスクもせず、大きな声で飲み食いすれば唾液が飛び、顔を突き合わせて話をすればウィルスを保持した唾液が他の人に付着することは十分考えられます。
問題は、飲食店の営業時間ではなく、飲食店がどのようなコロナ感染対策を取っているか、その対策は理に適っているか、そして、客がコロナ感染対策行動をとっているかどうか、が問題なのです。
取り締まるべきは、これらのコロナ対策行動を守っていないことだと考えます。
コロナ対策は工学も貢献できる
コロナ騒動のことですが、これまでコロナの感染防止は医師が中心になってやるものと思っていましたが、よく考えると、「感染防止は工学・物理学・技術者が中心となってやるべきだ」と思うようになりました。
なぜなら、感染経路は3つだからです。この3つの防止には必ずしも医師だけの役割とは限りません。
(1)飛沫感染 唾が飛んで、それを吸い込んで感染
(2)接触感染 感染者の体液が直接、付着して感染
(3)空気感染 空中に浮遊している水分にウィルスが付着して、それを吸引して感染
これは3つとも医学者の領域というより工学者が貢献できるのではないかと思います。
医師は、「感染した後の治療」に専念してもらうのが、いい協力体制ではないでしょうか。
これらの3つの感染経路を遮断するためには、医学の知識はあまりいりません。
物理学の知識、あるいは化学の知識の方が役に立つのではないでしょうか。
物理学や化学をベースにした工学者は、飛沫の飛翔距離や動きを解析して、「隔離」を実現するにはどうすればいいかを考えると、それで問題はかなり解決します。
接触感染は、ドアのノブやエレベータのボタンに付着したウィルスに、どうすれば接触しないかを考えれば、問題はかなり解決します。
空気感染では、流体力学の専門家が、どうすれば浮遊しているウィルスを除去できるかを考えれば、問題はかなり解決します。
これまでの感染防止は、医師が中心になって取り組んでおり、行政も医師に解答を求めたので不十分なものとなっていたのではないかと思います。。
これからは、工学系の人がもっと参加して取り組むべきだと考えます。。
医療関係者の献身的な努力には敬服します。
国家の重大な問題ですから、「科学的思考」に基づいて、いろいろな側面から取り組む必要があると思います。